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五十嵐さんはオーダースーツを取り扱っている。
本当に丁寧な仕事をしている。
完成までにかかる時間を宝物に変えてくれる。

オーダースーツが完成するまで

オーダーしたスーツはどれくらいで完成するのだろう。
「忘れたころに仕上がってきますね」
注文の流れを教えてくれた。

まず、お話を聴く。
「雑談です。その人に必要なスタイルなどを聴いて、どういう形の服にしましょうかと擦り合わせます」
紹介で来店する人がほとんどだ。
最近はインスタグラムを見て来てくれる人も増えているそうだ。

服のイメージが決まった後は、採寸や生地のセレクトなどをする。
生地は2000~3000種類バリエーションがあり、その中から選べる。

仮縫いという工程を挟むと完成前の段階を確認できる。
この工程は飛ばすこともできる。

五十嵐さん写真

完成したスーツをフィッティングして確認して、納品だ。

この間およそ2~3か月がかかる。

使用する生地はヨーロッパから取り寄せる。
輸送に時間がかかる。
それでも輸入にこだわるのは、スーツがヨーロッパ文化のものであり、現地のものを使った方が風合いが出るからだ。
ここにも、こだわりを感じる。

生地が届くと提携しているトップファクトリーで製作が始まる。
製法もひとつひとつ手間がかかるが、その手間が仕上がりに影響する。

「この日に着たい!というのがあれば、数か月前倒しで準備しないと間に合わないですね」
そういって五十嵐さんは笑う。

「国内外の既成服からフルオーダーまで僕はほとんど着ました。価格帯も様々です」
仕立服は国内で安くても30万円くらいからの物が多い。
そのクラスのものはいいものなのは間違いないが、購入のハードルは高い。

「着てもらって良さを知ってもらうために、ファクトリー製のものを10~15万円で手に入るようにしているのがうちの仕事です。高いは高いですが、値段相応で、他さんと比べるとコスパは良いです。それ以上のところに行きたければ紹介できる先はあるので、フルオーダーのスーツに興味があればまずはうちのものを試してみてほしいです」

開業してやりたかったことが2つ

「やりたいことが2つありました」
1つ目は、お客さんが最もカッコよくなるコーディネートを提供すること。

自分の売っているものにお客さんを当てはめていくのではない。
お客さんにとってベストなものを提供するために一番いいものを集めてくるのだ。

高価なものや自社が有利になるものではなく、お客様に必要なものを提供したい。
「僕は提供しているものは服ですが、売っているものはスタイルだと思っています」

2つ目は、販売員の地位を向上させること。
「僕自身、長らくアパレルの販売員をしていました。何度か社内で賞もいただくくらいには売ったりしました。それでも、30代に入って退職するときでさえ、聞いたらビックリするくらい月収が低かったんです」

販売の仕事は高度な専門性を必要とすると思われないことが多い。
代わりがきく仕事とみなされることも多い。
しかし実際には少し違う。
センスも必要。
売るものの勉強も必要。
歩く広告塔としてそれなりに服にお金をかけることも必要。
労力もお金も必要な仕事だ。

でも、多くの販売員は赤字ギリギリか、借金を背負って仕事を続けている。
「毎日カップラーメンでしのがないといけない暮らしをしている販売員が、高級な服を買いに来る人たちに服を勧めている。なんかおかしいですよね」
口調こそ穏やかだが、どうにもならない現実への強い想いがにじむ。
「だから、販売員の地位を向上させるような仕組みを作りたくて自分でやりだしたというのもあるんです」

現場で働く人たちの苦労が本当はもっと収入に結びついてほしいと思っている。
アパレルに限らず色々なところにある話だ。

「実は私の弟もフルオーダーのパンツを作っている職人なんですが」
弟さんも志を同じくする。
「職人さんをもっと食わせられるようにしたいと思ってやっています」
五十嵐さんも弟さんも、現場叩き上げの人だ。
現場をよく知っている。
現場の仕事がITに淘汰される面があることは仕方ないと考えている。
その反面、プロフェッショナルと呼ばれる人たちは淘汰されないと考えている。
評価基準が曖昧なために歪さが生まれていると感じている。
本来評価されるべき人が正当に評価されて対価を受け取れる仕組みを作りたい。

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五十嵐 裕基(いがらし ゆうき)さん
1985年生まれ。オーダーメイド紳士服販売のLECTEUR(レクトゥール)代表。南麻布に大人の隠れ家さながらのサロンを設け、紳士服をフルオーダーやパターンオーダーで販売されています。「提供しているものは服だが売っているものはスタイル」をモットーに、お客様が一番映えるスタイルを提案されています。前職は衣料品ブランドの販売員。自社の商品のみにこだわらずお客様に最も似合うスタイルを提案してきた異色の販売員でした。

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